ERWIN
Ich liebe Dich
trotzdem!
Ich liebe Dich
trotzdem!
ザルツブルクで発行されている新聞。購読しないか、
ということで2週間ほど、無料でサンプル配達されてきていた。
その新聞の中、つい目が行ってしまった。
新聞の広告欄で見つけた、3行の、短い個人広告。
こんな広告もあるのか、面白い、と思ってしまった。
いろいろと想像を掻き立てるかのような、ある特定個人への広告。
Erwin という名の、これは男性だろう、
ということはある女性がエルヴィンという男性にメッセージを送っているのだ。
お互いに恋人同士であったのかもしれない。
彼は離れて行ってしまったのだろう。
自分からか、それともお互いの了解の下でか、それは分からない。
彼女の方としては、エルヴィンに対する愛は変わらない、と伝えたいらしい。
彼の心が変わることを願っているのかも。
良く見ると、この個人広告を書いた人の名前、
「誰々から」ということが記されていない。
書いた人は誰ですか、などと例えば新聞社に電話を入れて問い質したとしても、
多分一笑に付されてしまうだろう。
個人情報の保護云々が、この際、ここでも問題になることだろうし、
電話したとしても、答えは多分出んわ、教えては呉れんわ、となるだろう。
だからわたしは最初から電話はしなかったが。
しかし、まあ、よくぞ、誰もが目を通す、新聞に広告を出すことを思い付いたものだ。
そのアイディアに感心するわたし。それが愛の告白なのか、確認なのか、
どっちかは分からないけれども、誰もが目を通すであろう新聞紙上に、
思い付いただけでなく、実行、発表するなんて、
わたしだったらそこまでする必要を感じない。
恥の文化を体中何年も吸収して来たわたし、
しかも費用も掛かるというものだろう。
愛に費用も恥じもないのかも知れないけれども。
* *
オーストリアにはエアヴィンという名のついた男性が数え切れないほどいるということ、
この人は知っていたのだろうか?
いや、自分にとってはたったの一人だけ、あのエアヴィンだけ、
ということは第三者が口を挟まなくとも分かり切ったこと。
自分の胸の内にあるたった一人だけのエアヴィンなのかも知れない。
新聞に広告を出さなければならないような緊急な事情があったからだ、
とも考えられる。
エアヴィン君は昔から毎日、この新聞を読む習慣だったということを。
新聞に広告を出せば、多分、自分のことだと思い出して貰えるだろう。
さて、エアヴィン君は彼女が発信した「個人三行広告」を読むだろうか?
それは分からない。彼は毎日欠かさず、この新聞を隅から隅まで読むか。
私の場合、今回、無料の新聞だということで隅から隅まで読もうとしていたが、
忙しい人にとってはそんなことをしている暇もないだろう。
彼女はエアヴィン君から連絡を受けることが出来るだろうか?
オーストリアにはたくさん、エアヴィンという名の男性がいることだろうし、
その一人に彼女は最後の、最後の希望をつないだのかも知れない。
オーストリアでの人間関係ドラマを見るかのような広告だ、
と感心してしまった。
ドイツ語も良く知っているドイツ語であった。Danke.