何かを感じたのだろうか、背広のポケットの中に手を突っ込んでみた。
何かが入ったままだった。
ティッシュペーパーかそれともナプキン風のペーパーが四つ折りになったものが出て来た。
それから何らかの紙片も出て来た。
何だろう、この紙片は、と手に取って目を近づけて見ると、何かが記されている。
「本日(1999年9月11日)、私たち二人はリンツで結婚しました。
新婚のわたしたち二人は”おめでとう”のメッセージを
東西南北どこからでも下記の住所まで送って頂ければ嬉しい限りです」
なんだろう、一瞬不思議な思いになったが、直ぐに納得した。
前回参加した結婚式に着て行ったこのスーツは
当時の事情、状況の一部をそのままポケットの中に
大事に保存、保管されていたのだ。
ペーパーナプキンは多分、結婚式の後の、レストランでの食事の際の、
殆ど汚すこともなかったそれを後々何かのために利用出来ると思って、
四つ折りにして背広のポケットに忍ばせたと思われる。
そして小さな紙片は、結婚式が教会で終わった後、
参加者たちは皆教会の外に出て、
披露宴が催されるレストランへと三々五々、
といっても皆車で移動したと記憶しているが、確かではない。
レストランの外、一人芝生の庭で立食パーティーだったのだろうか、
それともレストラン内での食事の準備が出来るまでの、
外で待っていたのだっただろうか。
それとも外ではある仕掛けが待っていたのだろうか。
風船が参加者一人ひとりに配られていたようだった。
風船には細い糸で結ばれた紙片が付いていた。
紙片には何が記されていたのだろうか、あまり注意して見ることもなかった。
参加者のほとんどが紙片の付いた風船を手にした後、
合図と共に一斉に、皆一緒に風船を空へと飛ばした。
というか紙片を手離すと、風船は紙片をぶらさげたまま空へと高く、
それぞれが思い思いに適当な方向へと舞い上がって行った。
結婚したという告知を風船を飛ばして、
風船を天から地上に舞い降りてくるのを発見したり入手した人は、
紙片に記されたメッセージを読んだら、
そして結婚おめでとうの一報を私たち二人宛に希望する
といった文言が印刷された紙片だった。
それがスーツのポケットの中にずっと収まったままだった。
* *
*
それだけのことだった。
どれだけ「おめでとう」の一報が届いたことだろうか。
紙片が15年間、スーツのポケットに眠り続けた、
それが目覚めた、いや目覚めさせられた。
それにしても配られた風船は上空へと飛んで行って消えてしまった筈なのに、
糸で括りつけられた紙片だけがポケットの中に残っていたとは
どういう事情だろう。
紙片だけを外してしまい、風船だけを飛ばしたわたしだったのだろうか。
当時のことはもう覚えていない。
つづく
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