運転免許証の書き換え、申請窓口にやってきた(2/9)

 過去数日間、役所に提出すべき書類を全て揃えていた。

 本日、ようやく準備万端、早速リンツの警察本部がある高層ビルへと一人で出掛けて行った。

 自分が居住している外国にあって、そこの役所に一人きりでやって来て
 自分で手続きを取ろうとするのは初めてのこと。

 大の大人だ、子供ではない、それとなく自分でやれるだろう。
 本国人に付き添いで来て貰えば、色々と手間も省けるかもしれないと思ったが、
 今回は全部自分でやってみようということにした。
 これも外国で生きて行く上での経験だ。

 建物にやって来てからは所定の部屋へと向かった。
 ノック。
 何の返事もない。
 誰もいないのかな?
 指定時間にやってきたというのに、、、、。
 入ろうか入るまいか?
 鍵が掛かっているの?
 ちょっと躊躇したが、ドアノブを回して、
 ドアを押し開けそのまま部屋の中へと入って行った。

 だだっ広い部屋に係官が一人。
 わたしが入って来たのを認める。
 簡単な身体検査、視力検査を受けた。
 それを終えた後、階段を降り、
 地上階へと、免許証書換えのための受付窓口へと向かった。



 窓口の受付の女性(役人)は一人だけ、
 それこそヨーロッパは近隣諸国からやって来て、
 そして今はオーストリアに居住している色々な外国人相手に事務を取っている。
 オーストリア人相手の役所というよりも
 オーストリアの外国人相手の役所と言った風に見えないこともない。

 ここに来ている人たちは皆、一つの目的のために来ているのだ。
 わたしも同 じ目的で長い列の後ろに並んで仲間入り、自分の番がやってくるのを待っている。
 見たこともない顔顔を眺めたり、仲間同士なのか、同国出身者同士なのか、
 耳にしたこともない外国語をお互いに喋っているのを
 わたしは傍で何となく不可解そうに耳を傾けている。

 壁に沿って色々な書類バインダー等が並んでいるのが見えるし、
 このおばさん、カウンターのこちら側から窓口を挟んでそちら側の人として観察すると、
 役所の人だということが納得出来るが、おばさんは普段着、別に制服を着ているわけでもない。
 町で見かける普通のおばさんのように見えないこともない。

 我々外国人は皆、オーストリア製の運転免許書を入手したいとやって来た、
 順番がないようなあるような、そんな列に並んでの申請者たち、
 おばさんは窓口の反対側にあって不足書類等の指摘やら、
 出来上がった運転免許証をにこりともせずに受け渡ししているようだ。


     *  *

 ようやくわたしの番が巡ってきた。

 心臓が何となくドキドキする。
 神妙な面持ちで提出、窓口の女性事務員は書類一枚一枚を認めた後、わたしに告げる。

 「来週の月曜日には出来ていますから、、、、、」
  ドイツ語で事務的に、にっこりとも二コリッともしない。

 そんなものか!? 
 とわたしは戸惑いながらも、直ぐに我に返って、そういう事実をそのまま受け容れた。



 オーストリアの中をゆっくりと流れるドナウ川のように、
 またヨーハン・シュトラウスの優雅なワルツ音楽を彷彿させてくれるような、
 序にこちらまで釣られて応答してまいそうな、
 そんな気品のある音楽的なニッコリを期待していたわたしだったが、
 そこにやって来た目的を根底から崩された。
 幻滅だ。
 立ち直れなくなることを予感的に恐れた。

 少なくとも二週間は掛かるものと予備知識を得ていたものだから、
 来週には出来るということで、ほほ~、と内心満足しながら、
 またそう言われたことを脳裏の片隅にしっかりと記憶させてから家路に就いた。