覚束ないドイツ語で申請窓口に戻った(4/9)

わたしは書き換えの申請をしてから随分と待たされている。既にもう何度足を運んだか知っているのだろうか、分かっているのだろうか。我が順番がようやく巡ってきた時、それを伝えたくて少々上気しながらも勢い込んで言った。

「また、書き換えの免許証を受け取りに来ました。申請したのが、一年前のことで、、」


思わず口から出てしまった。あれっ、しまった、言い間違えた、と内心、少々自分のドイツ語の拙さを暴露してしまったと思いながらも、そのまま平気の平左を装って、言葉を続ける。言い直す。


「申請してから、一ヶ月以上前からも待っているのですが、、」
相手の反応を待った。


前回と同じように、机の上やら、壁伝いには書類がぎっしりと詰まっているのが見える、そんなキャビネットの中やら、頭文字「U」、つまりわたしの名前の頭文字の箇所を調べている。


そうしながらも、その間、同僚の、もう一人の仕事仲間(女性)に報告している。

「ねえ、一年前の申請だなんて言っているのよ、ハハハハっ」


窓口のこちら側で待っていたわたしには聞こえないとでも思っていたのかもしれないが、外国人だからとドイツ語のヒヤリングがまだ出来ないとでも見くびっていたのだろうか、陸続きになった隣の部屋へとそのまま姿を消した。が、わたしの耳にははっきりと聞こえた言葉は消えていない。多分、そこにいた同僚の女性にも報告していたのかも知れないが、そんな様子が我が耳に届くようだ。

「ねえ、一年前だって、、」

わたしの言い間違えが相当気に入ったらしい。人を小バカにしやがって、と心の中に思ったとしても口には出さず、いや、口に出したところで、渡せないものは渡せないと回答が戻って来ることは火を見るよりも明らか、目に見えている。どうも書き換えの免許証はまだ到着していないようだ。雰囲気としてはそんな風に感じ取れる。


件の女性役人が戻って来る。わたしとの間には何も起こっていないとでもいった風情だ。一年前とも言える事務処理の遅さということがどうも分かっていないようだ。


案の定、予想したとおりだ。

「まだ来ていません。2、3週間後にまた来て下さい」

何だか、ここの人たちは“2、3週間後”、という表現が好きだね。先回もそう言ってわたしを帰したではないか。               

「2、3週間後ですか?」とちょっと皮肉を込めて繰り返すわたし。


今日こそはそう簡単には引き下がらないぞ、とちょっとだけ粘った。

「来ていないって、どこかに行っているのですか?」

「ウィーンの犯罪警察のところに調査に出しているところです」


犯罪警察? 何故ですか? とわたしは引き続きの追及はしなかった。ないものはない、 だから手渡すことも出来ない、そんな風に言われるだろうし、そんなことはわたしでも理解出来る。




無駄なことは喋らない。結構! 誠に事務に徹している。

知らないことは知らない。まあ、そういうことでしょう。

が、時間が来ると窓口も閉まってしまう。当然ということか。

こちらから尋ねない限り何も教えてくれない。

正に、求めよ、さらば与えられん、ということになるのか。


気を利かして情報を提供してくれるというものでもない。

一々、こちらから問い合わせなければならない。

これも考えてみれば当然というのか。

待っていても連絡が来る訳でもない。

こちらから出向いて確認するしかない。

不親切だ、とつい思ってしまうわたしなのだが、、いやはや。


犯罪警察。何故だろう、と自分で考えてしまった。申請者に“犯罪歴”でもあるかどうか、調査中ということか。そういえば、居住ビザを申請した時のこと、日本から持参した 「無犯罪証明書」なる書類を提出したことを思い出す。外国人(ある意味では世界的に“悪名高き”日本人、わたしもその一端を背負い込んでいるのだが)で元犯罪者には免許証は発行しないといった規則があるのかも知れない。

ウィーンに問い合わせ中。結局、日本の外務省を通して、日本の警察まで調査の依頼が行っているのかも、日本から返事が戻って来ていないから免許証もまだ発行していいものかどうかわからない、ということなのか。わたしは長く待たされながらも、この長く待たされているという事実を日本人の善意で解釈して上げている。