書き換え免許の許可がやっと下りた(8/9)

自宅から電話を入れた。勿論、局長さんへの直通だ。

もう夏の休暇は終わっている筈。呼び出し音が続く。誰も、というのか 局長さんは素早く受話器を取らない。もったいぶっているのか。またも待たされているわたしだ。

「○○」

オーストリアでは自分の受話器を取るとき、自分の名前、苗字を言う、らしい。それだけ。ブッキラ棒に聞こえるものだ。局長さんは漸く電話を取ったようだ。

「ハロー、、、」とわたし。

「○○だ」

何となく不機嫌そうな声。

「ウエキと申しますが、ウィーンから到着しましたか?」

「ウィーンから?  何のことを言っているのか、わしには分からん」

休暇ボケか。

「わたしの、書換え運転免許証はウィーンに依頼中だ、とおっしゃっていたではないですか」

若干語気を荒げるからのように、わたしは飽くまでも低姿勢を保っていたのだが、電話で顔も見えないことを幸いに少し強く出た。

「名前は?」と局長殿。

「ウエキです」

既に名乗っているのに、またも聞いてくる。わたしの求めるものが分かっている筈なのにもったいぶっているのか、仕事をしたくないのか、奥さんとでも喧嘩をして気分が宜しくないのか、昼食前でイライラしているのか、何だか良くは分からないが、取り合いたくはないといった風だ。オーストリアの 公務員は、とついついまたも非難したくなるような愚痴ったくなるような気持ちが湧き上がって来る。

自分の机の上に積み上げてある書類を引っ繰り返している音が受話器を通して聞こえてくる。

局長さん、席を立ち上がったようだ。壁際のキャビネットの戸を開けたりして更に探し物をしている。目の前にそんな姿が想像される。わたしは受話 器を握ったまま、またも待たされているのだ。

電話だから直ぐに用事が済むかと思いきやあに図らんや、自分の意に反して待たされること。オーストリアでの人生とは待つことなのか。そこら 中を引っ繰り返している様子が相変わらず耳に伝わって来る。現場に居合わせたことがあるから、局長さんの一挙手一投足が手に取るように見えてしまう。

待つことが続く。

またも駄目か、と消極的な諦め気分に傾き掛ける。

「ハロー!」

「ハロー!」わたしも釣られて真似してしまった。


「許可は下りたよ」

「今日これから貰いに行けますか?」

「今日は駄目だ。明日来てくれ」

「今日は駄目なんですか? (どうしてですか? とは追求しなかった)それでは明日伺います。どうも有難うございました!」
 

書換え運転免許証が入手出来るというニュースを聞いて、わたしは内心喜んだ。「どうも有り難うございます」ともう一度、少々大声で締めくった。局長さんには中てつけ、皮肉に聞こえたかも知れないかな。