6月に入っているオーストリア。
いや、世界中が6月ももう後半に入っている。
オーストリアの6月、梅雨はない。
でも雨は降る。
雨が降って喜ぶのは勿論、農家の人たちだ。
農作物が順調に成長して行くに適当なお湿りが必要だから。
イベリア半島のスペインやポルトガルの一部では日照りが強烈に続き、山火事が発生した。
朝のラジオニュースでは、
ドイツ語で astronomischer Sommer 天文学的に夏に入った、
と言っていた。
暦の上での夏、とは良く聞いていたが、別の夏らしい。
今年の、ヨーロッパの夏は昨年以上に暑くなることが予想される。
ヨーロッパは南部へと休暇に出掛けて行く車、車、車、車で
途轍もなくな長~い渋滞が例年のごとく予想される。
長い、と言えば、こんなに長いものは(日本では)見たことがなかった。
いや、今となっては長いこと忘れていたと言った方が正確か。
* *
今の時期、オーストリアでは、我が家の前には小さな芝生
(といっても勝手に雑草が生えたようなもの)
そしてお隣さんとの境界線沿いにも”芝生”(芝刈り機で刈って背丈をほぼ均等にしたもの、
そんな中にたくさんの ”葉巻タバコ”に似た生物がが隠れて何かをやっているのでしょうかねえ。
そう、外観はまるで”生きた ”葉巻タバコ”のように見えないこともない。
オーストリアは午後9時になっても”明るい”。
午前中に降った雨、水分に刺激を受けたのか、
いつの間にか、たくさんの”生きた”+”葉巻タバコ”がそんなにも繁殖し活動を開始していたのか。
我が家の後ろには猫の額ほどの家庭菜園を我が奥さんは作ってあるのだが、
種を買ってきて植え、ようやく緑色のサラダ菜が成長してきて、
早く大きくなれ、大きくなれと
毎日、夕方には散水して翌日の日照に備えているのだが、
サラダ菜が列をなしてみるみると成長してきているのが分かって嬉しいし、
採集して食卓に並ぶのが楽しみなのだが。
いつものように部屋に閉じこもって、コンピュータ画面とにらめっこをしていたら、
急に窓の外、大声で私を呼んでいる。
「ねえ、ちょっと来て! ちょっと外へ来てよ!」
声は興奮気味。何が起こったのか?
怪我でもして助けを呼んでいるのか?
私は家の外へとゆっくりと急いで駆け足で飛び出す。
「何だ、何が起こった?」
「古新聞持って来てっ!」
「何~んだ、そんなことか!? こっちだって忙しいんだ」
「いいから、持って来てよ」
古新聞を持って再び、ドアの外へと出た。
古新聞を地面の上に広げて、どこからそんなに集めてきたのだろう?
「何だ、それ?」
「ナクトシュネッケン」
「シュネッケン?」
カタツムリのことか、、、
わたしは心の中で シュネッケ というドイツ語単語の意味を確認していた。
「カタツムリなら殻を背負っている筈ではなかったのかな?」
「だから”ナクト”シュネッケというのよ」
ナクトとはドイツ語で裸、
そうか、殻が無いから裸、ナクトということでナクトシュネッケンというのか、
と自分なりに納得した。
直訳すれば、「裸のカタツムリ」か。
* *
ラジオ放送を聞いていたら、あるオーストリア人が料理本を出した、
ということでインタヴューを受けていた。
本の題名は Schneckenkochbuch というのだそうだ。
シュネッケンは食べられるのですよ、イタリアではピッツァの上に乗せて、
フランス、スペインでも料理して食べる、
オーストリアでは砂糖を付けて食べるのですよ、
ハハハハッと笑いながら説明していた。
何言ってんだい、そんなこと知ってら、オレだって食べたことはあるよ、
というか食べようとしたが真っ黒の焦げてしまったので、食べようにも食べられなかったが。
北海道は知床でのことだった。
何故か終始笑いながら説明している、
著者自身、ちょっと変な食材を題材にした本を書いてしまったことに対する
照れ隠しのように聞こえないこともなかった。
あんな”葉巻”、本当に食べるのか? 本当に?
想像を絶する!
* *
先週の日曜日、夕食後、外に出て、芝生の上をちょっと歩いてみると、
いる!
いる!
というか、たまたま発見。
我が奥さん、全て退治したかと思っていたのだが、
またもどこからか降って湧いてきたかのようにいるのだ。
予想していなかった、だから驚愕に近かった。
自分の家の庭、小さな菜園でお目にかかるとは!
発見してしまった故に、周辺を詳細に調べてみると、
いるわ、いるわ、たくさん、いるわ、いるわ、
そこかしこに
大量に集っているのを見ると気味が悪い。
オーストリアにやって来て、お目にかかったのは今回が初めてではなかった。
毎夏、子供達の夏休みの期間中、100年以上も歴史のあるという、
我が奥さんのお母さん、お母さんのお姉さん、
お母さんとお姉さんのお父さんお母さんが住んでいたという家、
ニーダーオストリア州にある、お父さんお母さんの手作りの家とのことだが、
その家を訪れて一、二週間休暇を過ごす。
周囲は小高い丘のような山に囲まれた場所で、
夕食後、就寝前の一時、アスファルトの坂道をゆっくりと、
木々でトンネルのようになったところを歩いて行く。
高い所から地域全体が鳥瞰出来る。
山林の中、アスファルトの道路を登ってゆくと、
足元そこら辺に、あっ、あそこにも、
あれっ、ここにも、
あれれっ、いやあぁ、たくさん! 見出されるのだった。
初めて見た時、背筋にゾクゾクと電流が流れた。
日本では一度も見たこともないものを経験した、体感した。
犬の糞と間違えそうになることもあるが、
湿っていて、つやがあるとでもいうのか、生きているのだ。
靴先とちょこっと突っつくとクルクルと丸くなってしまうこともある。
何だろう、こんなものみたことがない。
しかし、しかし、しかし、我が家の庭という余りにも身近なところで再会するとは!
想像だにしていなかった。
その生物は芝生、草の間に隠れて何をしているのか?
雑草を食っている?
喰い捲くっている?
雑草ではなく我が食卓の上の野菜、サラダとなるものを食いまくったいる。
当の人間の許可も得ずに勝手に食っているのが発覚したのだ。
そう、人間さまの許可も得ずに食い漁っているのが憎らしい。
頭に来る。
そう、忌々しい害虫なのだ。
家庭菜園、早く芽が出て来て、葉が大きくなって収穫出来るのを待っていたのに。
「ねえ、聞いてよ。一つのサラダ菜の裏に5匹! 五匹もよ!」
密かに隠れて食事をしていた、ということなのだ。
わたしが精魂込めて栽培していたものに断りもなく、、、
その生物に対する恨みでもあるか?
いいえ、でも何故か、許せない!
その驚きようはよく分かる。
5匹が集団でサラダ菜を黙々と襲撃しているのだ。
その食欲ぶりは驚き桃の木山椒の木!
生々しい。ヌメヌメしい。
ドイツ語で、Nacktschnecken。
手元の辞書を引いたみたら、ナメクジ、と出ている。
オーストリア製のカタツムリのことか!?
細めの”生きた”葉巻タバコ
殻のないカタツムリをナメクジというだろうか?
「あっ、そういえば、テレビで、確か水曜日の夜だったと思う。
そのことについて取り上げるクイズショー番組があるよ」
「そう?」
「どうしたら防げるのか、といったことをテーマに取り上げるのじゃないかな」
「じゃ、見てみようかしら」
その日の晩、ソファにふんぞり返るように篤と拝見、教えて貰おうと期待を以って見た。
ドイツの、ショービジネス界の有名人二人が回答者となって、
クイズの答え当てるということだ。
そして回答には実験して見せてくれる。
回答例が3つあって、正解を当てるというもの。
クイズ問題:このナクトシュネッケンから野菜を守るためにはどうするか?
一、野菜の周囲に砂を高く盛るようにする。つまり、近寄り難くする(?)
二、野菜の周囲に割れた尖ったガラスで囲いを作る。
三、野菜の周囲に銅のフォイルを置いておく。
正解は、三であった。
当該の虫は銅に対しては本能的に身に毒だということで避けて通るらしい。
つまり、野菜に近づけない。
期待を持って見ていたが、その正解はいわば消極的な防御法とでも言えるもの。
我が奥さんにも勧められる防御法とは思われたが、思いを込めて栽培し、成長を見守っていたのに、
そんな思いを踏み躙り食い千切っている、そんな”害虫”に罰を加えるが如く、
お灸を据えるが如く、
何匹(本)も探し出してきては古新聞紙の上に、
掻き集めて、何をしたかというと、スコップの鋭い刃先で一本づつ半本づつに千切って、
それが終わった後は、新聞紙を畳んで、生ゴミとしてポイ捨てしまった。
「ねえ、何匹(本?)、いたと思う?」
「分からない。想像がつかない」
「50、50よ!」
仔細に数え上げたらしい。生きた”葉巻”が50本。
「ということは100にしたということか!?」
わたしは口に出さず、頭の中で簡単すぎる暗算をしていた。
半殺しにしている現場に居合わせて仔細に確認したわけではなかった。
それとなく想像した。
「まったく!」と我が奥さん。
「全く!」わたしも同調。
ヨーロッパ各国ではあの著者が語っていたように、
この茶色の細長いモノを料理して本当に食べるのか!?
わたしは絶対に食べたくはないし、食べたいとも絶対に思わない。
(21062006)
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