書き換え免許証の回収(9/9)

車(クルマ)といってもわたしの場合、自転「車」のことだが、郊外から市内へと風を颯爽と切って走って行く。

目指すは勿論、リンツ警察署の建物だ。そしてその中にある交通局だ。あの窓口だ。もう顔なじみになっていると思うけど、そんなことおくびにも出さぬ様子、毎回窓口にこの黄色い顔を出す度にはじめて申請に来た人ですよねといったような応対をしている、あの受付の女性、つまりおばさん、その人だ。しらばくれるのもいい加減に止めたらいいのに、とわたしが思っていること、分かっているのかどうなのか。


車を駆りながらもその人の心の内が我が耳に前以て聞こえて来るかのようだ。

「まただわ、あの日本人、懲りずにやって来るわね。答えはいつも同じよ。分かっているのかしら。“二、三週間後に”また来て下さいな」

わたしの番がやって来たので、既に何度も言った、今となっては立派なお手本ドイツ語例文となったものを言い放った。

「書換えの免許証を取りに来ました!」

どうだ、といった風に相手の反応を待つ。待つことに慣れてしまったわけではなかったが、相 手が「ちょっと待ってください」と言う前に、既にわたしは待っている。

「許可は下りたのですか?」

珍しい、わたしに質問してくる。

許可は下りたのですかって?

それはわたしが毎度毎度、毎度あり~だ、聞きたかったことではないですか!?

立場が逆転してしまったようだ。どうしたのだろうか。役所の人でしょ うが、知らない筈ではないのではないのではないでしょうか。

二重、三重と否定されてきてしまった結果がこんな否定表現となって表れてしまうものなのか。人騒がせだ、いや人任せだなあ。

「ええ、昨日聞きましたよ」

わたしは親切にも教えてあげる。

女性役人は安心したかのように、いつもの行動を重ね、一束になった書類を窓口に持って来る。

 
オーストリア国の運転免許証、一生涯書換えなしで使用できる。そんな 桃色のものが見える。受け取りサインを目の前でした後、のり付きセロファンが一ページ全体に貼り付けられた。そして、待望の、わたしの手に渡された。

「長い間、本当にご苦労様でした」とはその女性役人、わたしに向かって言わないので、わたしは自分で自分に向かって言った。

そのリンツ警察ビルから出た。 



郷に入っては郷に従え、といったことわざがあるが、オーストリアに入ったら、オーストリアのやり方に従え、ということなのかもしれない。とにもかくにも、所期の目的は達成された、ということで目出度し、目出度し。Danke.


書き換え免許の許可がやっと下りた(8/9)

自宅から電話を入れた。勿論、局長さんへの直通だ。

もう夏の休暇は終わっている筈。呼び出し音が続く。誰も、というのか 局長さんは素早く受話器を取らない。もったいぶっているのか。またも待たされているわたしだ。

「○○」

オーストリアでは自分の受話器を取るとき、自分の名前、苗字を言う、らしい。それだけ。ブッキラ棒に聞こえるものだ。局長さんは漸く電話を取ったようだ。

「ハロー、、、」とわたし。

「○○だ」

何となく不機嫌そうな声。

「ウエキと申しますが、ウィーンから到着しましたか?」

「ウィーンから?  何のことを言っているのか、わしには分からん」

休暇ボケか。

「わたしの、書換え運転免許証はウィーンに依頼中だ、とおっしゃっていたではないですか」

若干語気を荒げるからのように、わたしは飽くまでも低姿勢を保っていたのだが、電話で顔も見えないことを幸いに少し強く出た。

「名前は?」と局長殿。

「ウエキです」

既に名乗っているのに、またも聞いてくる。わたしの求めるものが分かっている筈なのにもったいぶっているのか、仕事をしたくないのか、奥さんとでも喧嘩をして気分が宜しくないのか、昼食前でイライラしているのか、何だか良くは分からないが、取り合いたくはないといった風だ。オーストリアの 公務員は、とついついまたも非難したくなるような愚痴ったくなるような気持ちが湧き上がって来る。

自分の机の上に積み上げてある書類を引っ繰り返している音が受話器を通して聞こえてくる。

局長さん、席を立ち上がったようだ。壁際のキャビネットの戸を開けたりして更に探し物をしている。目の前にそんな姿が想像される。わたしは受話 器を握ったまま、またも待たされているのだ。

電話だから直ぐに用事が済むかと思いきやあに図らんや、自分の意に反して待たされること。オーストリアでの人生とは待つことなのか。そこら 中を引っ繰り返している様子が相変わらず耳に伝わって来る。現場に居合わせたことがあるから、局長さんの一挙手一投足が手に取るように見えてしまう。

待つことが続く。

またも駄目か、と消極的な諦め気分に傾き掛ける。

「ハロー!」

「ハロー!」わたしも釣られて真似してしまった。


「許可は下りたよ」

「今日これから貰いに行けますか?」

「今日は駄目だ。明日来てくれ」

「今日は駄目なんですか? (どうしてですか? とは追求しなかった)それでは明日伺います。どうも有難うございました!」
 

書換え運転免許証が入手出来るというニュースを聞いて、わたしは内心喜んだ。「どうも有り難うございます」ともう一度、少々大声で締めくった。局長さんには中てつけ、皮肉に聞こえたかも知れないかな。

局長さんは夏の休暇を取っていた(7/9)

偶々リンツ市内での用事があったので、序にそのままリンツ警察署へと出向いた。 勿論、目的は一つ。相手はそう思っていないだろうが、わたしにとってはもう顔なじみの、受付窓口の女性役人にご機嫌伺い。

「局長に聞いて見てください」

そう言いながらも確かめに局長室へと入って行く。

「局長は休暇を二週間取って、今、いませんが、、、、、」

“二、三週間”の言い間違えではないのですか、と我が内心は皮肉っぽくも今に至ってはちょっとへそ曲がり。

「二週間ですね?」とわたし。

念を押す。

局長さん、逃げたのか。

無駄足だった。

局長さんのホットライン(6/9)

先日、局長さんに直接繋がる電話番号、ホットラインをご本人から教えて貰った。 本日、その番号に初めてダイヤルした。

局長さん、例の机に向かって仕事をしていたのか、直ぐに受話器を取り上げた。電話では長らく待たされることもなく、例の如く机の上の書類を引っ繰り返したりして捜している騒音が我が耳に伝わって来る。

「まだ来ていないようだ。来週、また電話してくれ」

まだ?

まだなのですか?

交通局の局長に直接会って(5/9)

「その2、3週間後」という曖昧な期限が過ぎてから、また同じ窓口へとこの黄色い顔を出した。要求することは同じだ。今回は言い間違えないようにと慎重に落ち着いてドイツ語を放った。

前回と同様、部屋中、そこここと書類を引っくり返したりしているのが観察される。

「まだ来ていません」

まだ来ていないのか! 

一体何をしているのか、オーストリアの役所は!

そんな風に大声で口に出さず、わたしは内心、呆れ返っていた。


何度も何度も足を運んでいるということが分かっているのか。全然誠意がないみたいだ! 外国人に対する意地悪でもしているのかと変に勘ぐってしまいそうだ。まったく、全くどうなっているのやら、無駄足を踏むこと何度もだ。さっぱり分からん、とわたしが内なる大いなる声なき声を出して思案しているのを不憫に見て取って呉れたのか、女性役人は言葉を継ぐ。

「隣の部屋へ行って、局長に 会って状況を聞いて見て下さい」


私たち女性事務員は言われたまま、規則に則って仕事をしているだけですよ、と言いたげそうな表情。責任は他人にあり。その他人とは 、はい、局長その人です、と。

隣の局長室へとご自分で行って下さい、ということに相成った。

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覚束ないドイツ語で申請窓口に戻った(4/9)

わたしは書き換えの申請をしてから随分と待たされている。既にもう何度足を運んだか知っているのだろうか、分かっているのだろうか。我が順番がようやく巡ってきた時、それを伝えたくて少々上気しながらも勢い込んで言った。

「また、書き換えの免許証を受け取りに来ました。申請したのが、一年前のことで、、」


思わず口から出てしまった。あれっ、しまった、言い間違えた、と内心、少々自分のドイツ語の拙さを暴露してしまったと思いながらも、そのまま平気の平左を装って、言葉を続ける。言い直す。


「申請してから、一ヶ月以上前からも待っているのですが、、」
相手の反応を待った。


前回と同じように、机の上やら、壁伝いには書類がぎっしりと詰まっているのが見える、そんなキャビネットの中やら、頭文字「U」、つまりわたしの名前の頭文字の箇所を調べている。


そうしながらも、その間、同僚の、もう一人の仕事仲間(女性)に報告している。

「ねえ、一年前の申請だなんて言っているのよ、ハハハハっ」


窓口のこちら側で待っていたわたしには聞こえないとでも思っていたのかもしれないが、外国人だからとドイツ語のヒヤリングがまだ出来ないとでも見くびっていたのだろうか、陸続きになった隣の部屋へとそのまま姿を消した。が、わたしの耳にははっきりと聞こえた言葉は消えていない。多分、そこにいた同僚の女性にも報告していたのかも知れないが、そんな様子が我が耳に届くようだ。

「ねえ、一年前だって、、」

わたしの言い間違えが相当気に入ったらしい。人を小バカにしやがって、と心の中に思ったとしても口には出さず、いや、口に出したところで、渡せないものは渡せないと回答が戻って来ることは火を見るよりも明らか、目に見えている。どうも書き換えの免許証はまだ到着していないようだ。雰囲気としてはそんな風に感じ取れる。


件の女性役人が戻って来る。わたしとの間には何も起こっていないとでもいった風情だ。一年前とも言える事務処理の遅さということがどうも分かっていないようだ。


案の定、予想したとおりだ。

「まだ来ていません。2、3週間後にまた来て下さい」

何だか、ここの人たちは“2、3週間後”、という表現が好きだね。先回もそう言ってわたしを帰したではないか。               

「2、3週間後ですか?」とちょっと皮肉を込めて繰り返すわたし。


今日こそはそう簡単には引き下がらないぞ、とちょっとだけ粘った。

「来ていないって、どこかに行っているのですか?」

「ウィーンの犯罪警察のところに調査に出しているところです」


犯罪警察? 何故ですか? とわたしは引き続きの追及はしなかった。ないものはない、 だから手渡すことも出来ない、そんな風に言われるだろうし、そんなことはわたしでも理解出来る。




無駄なことは喋らない。結構! 誠に事務に徹している。

知らないことは知らない。まあ、そういうことでしょう。

が、時間が来ると窓口も閉まってしまう。当然ということか。

こちらから尋ねない限り何も教えてくれない。

正に、求めよ、さらば与えられん、ということになるのか。


気を利かして情報を提供してくれるというものでもない。

一々、こちらから問い合わせなければならない。

これも考えてみれば当然というのか。

待っていても連絡が来る訳でもない。

こちらから出向いて確認するしかない。

不親切だ、とつい思ってしまうわたしなのだが、、いやはや。


犯罪警察。何故だろう、と自分で考えてしまった。申請者に“犯罪歴”でもあるかどうか、調査中ということか。そういえば、居住ビザを申請した時のこと、日本から持参した 「無犯罪証明書」なる書類を提出したことを思い出す。外国人(ある意味では世界的に“悪名高き”日本人、わたしもその一端を背負い込んでいるのだが)で元犯罪者には免許証は発行しないといった規則があるのかも知れない。

ウィーンに問い合わせ中。結局、日本の外務省を通して、日本の警察まで調査の依頼が行っているのかも、日本から返事が戻って来ていないから免許証もまだ発行していいものかどうかわからない、ということなのか。わたしは長く待たされながらも、この長く待たされているという事実を日本人の善意で解釈して上げている。


中古車が手に入った(3/9)

 本日、偶々、そう偶々と言えよう、「車」が手に入った。

 これはやっぱり、わたしが早くオーストリアの運転免許証を獲て車を運転出来るようにと
 目には見えない周囲の力が色々とその方向へとお膳立てをしてくれたものなのかな、
 と余りの符合振りに内心微笑んだ。


 実は、日本での過去の日々、ヨーロッパでの過去の日々、
 「車」を購入するとか所有するとか、また自分で運転するとか、
 そんなことは考えることもなかった。
 わたしの頭の中を車が占めることはなかった。

 日本一周ヒッチハイクの旅をしていた時も色々な車に乗せて貰ったが、
 自分で運転するなどという考えはこれっぽっちも浮かんで来なかった。
 旅の性質上、そういうものではあったが・・・・。

 車は怖い! そういう先入観というのか、
 固定観念が我が無意識の下には常にあったようだ。

 運転して人を轢いてしまったどうなるのか。
 怪我をさせたり、最悪の場合、死亡させてしまったりしたらどうなるのか。
 被害者は惨めだ。加害者も惨めな思いからは解放されないだろう。

 幼児期の体験が深く根強く潜在意識として生きていたのかもしれない。
 近所の小さな女の子が米軍キャンプのトラックに轢かれて路上、動かなくなってしまった。
 死んでしまったのだ。
 子供ながらも何が起こったのか直感したわたしだった。
 残された家族は大層悲しんだ。
 子供ながらよく覚えてい た。

 日本の空の下、何処かで交通事故のために毎日死んでいる。
 年間一万人を超えたとか超えなかったとか、そんな話題が記憶にある。
 交通事故のニュースを聞く度に、また交通事故現場の映像を見ながら、
 車など運転するものではない。
 いつ命をおとすか分かったものではない。
 車に近寄ることもなかった。縁もなかった。


         *   *

 その「車」とは中古車、知り合いのアメリカ人が奥さんがいる韓国へ行くことになり、
 その留守中だけでも預かるということになった。
 今、その車は我が家の前に駐車している。

 郊外にある自宅(といっても一軒家ではない、アパートの一区画を
 家族全員で借りているに過ぎないのだが)からリンツ市内へと、
  リンツ警察本部が入っている建物の中にある交通局まで、
 わたしの運転にこりごりの我奥さんの運転で送って貰った。
 わたしは助手席に座りながら一人ほくそえんでいた。    

 「本日はオーストリアの運転免許証が入手できるぞ」。


 窓口に顔を出す。
 自分のパスポートを見せながら、本人がやって来ていることを証明しながら、
 たどたどしくもドドイツ語で用件を告げる。

 ドイツ語しか通じないようだし、
 窓口の女性役人も申請者は外国人であろうともドイツ語は当然話せる、理解できるもの
 と捉えているようだ。

 そう想ってくれているのは有り難いのだが、実体が伴わない我ドイツ語。
 その覚束なさ、自意識過剰で額に汗し、脇の下に汗し、ドドドどもりがち。
 舌が乾いてしまっているかのように上手く回らない。
 何で俺様はこんな苦労をしてまでドイツ語を無理に喋らなければならない羽目になってしまったのか。

 女性事務員は自分の縄張り、机の上、棚の中、隣の部屋へと何をかを探しているようであった。
 が、目的ものが何も出てこなかったらしく、事務的に、何の感情もないかのように、
 元の窓口に戻って来て事実をわたしに告げる。

 「まだ出来上がっていません。2週間後にまた来てください」

 先回来た時、もう今週には出来ていると言ったじゃないか! 
 忘れたのですか?! 
 声高く広言を吐いたわけではなかった。

 「2週間後ですか?」

 その返事が信じられないといった口吻で、質問とも確認とも取れるような、
 同じ言葉を、いやそんな言葉は要らないよ、
 そのままお返しますよと言いたげに繰り返して、その場を去った。

 「2週間後でですね!?」

 全く、オオースットリアの役所は、ははハッキリししないなああ。




運転免許証の書き換え、申請窓口にやってきた(2/9)

 過去数日間、役所に提出すべき書類を全て揃えていた。

 本日、ようやく準備万端、早速リンツの警察本部がある高層ビルへと一人で出掛けて行った。

 自分が居住している外国にあって、そこの役所に一人きりでやって来て
 自分で手続きを取ろうとするのは初めてのこと。

 大の大人だ、子供ではない、それとなく自分でやれるだろう。
 本国人に付き添いで来て貰えば、色々と手間も省けるかもしれないと思ったが、
 今回は全部自分でやってみようということにした。
 これも外国で生きて行く上での経験だ。

 建物にやって来てからは所定の部屋へと向かった。
 ノック。
 何の返事もない。
 誰もいないのかな?
 指定時間にやってきたというのに、、、、。
 入ろうか入るまいか?
 鍵が掛かっているの?
 ちょっと躊躇したが、ドアノブを回して、
 ドアを押し開けそのまま部屋の中へと入って行った。

 だだっ広い部屋に係官が一人。
 わたしが入って来たのを認める。
 簡単な身体検査、視力検査を受けた。
 それを終えた後、階段を降り、
 地上階へと、免許証書換えのための受付窓口へと向かった。



 窓口の受付の女性(役人)は一人だけ、
 それこそヨーロッパは近隣諸国からやって来て、
 そして今はオーストリアに居住している色々な外国人相手に事務を取っている。
 オーストリア人相手の役所というよりも
 オーストリアの外国人相手の役所と言った風に見えないこともない。

 ここに来ている人たちは皆、一つの目的のために来ているのだ。
 わたしも同 じ目的で長い列の後ろに並んで仲間入り、自分の番がやってくるのを待っている。
 見たこともない顔顔を眺めたり、仲間同士なのか、同国出身者同士なのか、
 耳にしたこともない外国語をお互いに喋っているのを
 わたしは傍で何となく不可解そうに耳を傾けている。

 壁に沿って色々な書類バインダー等が並んでいるのが見えるし、
 このおばさん、カウンターのこちら側から窓口を挟んでそちら側の人として観察すると、
 役所の人だということが納得出来るが、おばさんは普段着、別に制服を着ているわけでもない。
 町で見かける普通のおばさんのように見えないこともない。

 我々外国人は皆、オーストリア製の運転免許書を入手したいとやって来た、
 順番がないようなあるような、そんな列に並んでの申請者たち、
 おばさんは窓口の反対側にあって不足書類等の指摘やら、
 出来上がった運転免許証をにこりともせずに受け渡ししているようだ。


     *  *

 ようやくわたしの番が巡ってきた。

 心臓が何となくドキドキする。
 神妙な面持ちで提出、窓口の女性事務員は書類一枚一枚を認めた後、わたしに告げる。

 「来週の月曜日には出来ていますから、、、、、」
  ドイツ語で事務的に、にっこりとも二コリッともしない。

 そんなものか!? 
 とわたしは戸惑いながらも、直ぐに我に返って、そういう事実をそのまま受け容れた。



 オーストリアの中をゆっくりと流れるドナウ川のように、
 またヨーハン・シュトラウスの優雅なワルツ音楽を彷彿させてくれるような、
 序にこちらまで釣られて応答してまいそうな、
 そんな気品のある音楽的なニッコリを期待していたわたしだったが、
 そこにやって来た目的を根底から崩された。
 幻滅だ。
 立ち直れなくなることを予感的に恐れた。

 少なくとも二週間は掛かるものと予備知識を得ていたものだから、
 来週には出来るということで、ほほ~、と内心満足しながら、
 またそう言われたことを脳裏の片隅にしっかりと記憶させてから家路に就いた。

運転免許証の書き換えに動く(1/9)

 日本から持参してきた“日本製”「自動車運転免許証」を持って、地元のオーストリア警察に行った。
 係官にそれを見せながら「オーストリアの運転免許証と取り替えて欲しい」と頼んだ。

 「何だ、これ。何か入場許可証みたいだなあ」

 日本から持ってきた自動車運転免許証を眺めながら、そんなことを言う。
 本気でそう思って言ったのかも知れないが、その言い方がどうも気に食わない。
 いわばわたしの分身と言っても良いもの、ケチをつけられたか、と思った。

 提出書類の一つとしてこの日本運転免許証を独語か英語かに翻訳して持って来るようにと言われ、
 免許証も返してくれた。ちょっとムッとしたが、言われるまま一旦自宅に帰って来た。